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名古屋地方裁判所 平成7年(ワ)4952号 判決 1997年8月22日

原告

畑山一之

ほか一名

被告

井寺智定

主文

一  原告両名の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告両名の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告両名に対し、金四一三〇万八五〇九円及びこれに対する平成七年四月一六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、被告の起こした交通事故について、被害者畑山大樹(以下「大樹」という。)の遺族である原告両名が、被告に対し、民法七〇九条に基づいて、その損害の賠償を請求した事案である。

一  争いのない事実

1  本件事故

平成七年四月一六日午後五時三〇分ころ、愛知県小牧市大字西之島一九七〇番地先路上(国道一五五号線)において、被告が運転する普通乗用自動車(以下「被告車」という。)が、大樹の運転する自転車と衝突した。

2  大樹の死亡と原告両名による相続

大樹は、本件事故により、同月一七日午後三時五七分ころ、死亡した(当時一一歳)。原告両名は、大樹の両親である。

3  既払金による損益相殺

原告両名は、被告の自動車損害賠償保険から三〇〇〇万三二〇〇円の支払を受けた。

二  争点

1  本件事故について被告の過失の有無

(原告両名の主張)

本件事故の現場は、被告車が走行していた国道一五五号線にある山屋敷橋の東方にある横断歩道上又は山屋敷橋東側の同国道と市道とが交差する丁字型交差点内路上であり、被告が前方を注視していれば、ヘルメットを着用しオレンジ色のカッパを着ていた大樹が自転車で国道一五五号線を横断することは容易に発見が可能であった。ところが、被告は、右前方を注視すべき義務を怠り、進路右方前方の安全を確認しないまま漫然と被告車を走行させ、本件事故を発生させた。

(被告の主張)

被告は、国道一五五号線を東方から西方に向かって時速約四〇キロメートルを若干超える速度で被告車を走行させており、対向して走行してきたワゴン車と山屋敷橋の東側付近ですれ違おうとした瞬間、山屋敷橋西側付近から右国道を北から南に向かって横断してきた大樹運転の自転車を被告車の前方約二一・七メートルの地点に発見し、即座に急制動の措置を取ったものの間に合わず、本件事故を発生させたのであり、被告が右発見地点より手前で大樹が運転する自転車を発見することは不可能に近く、被告に進路右方前方の安全の確認を怠った過失は存在しない。また、本件事故の現場は、右のとおり国道一五五号線の山屋敷橋西側路上である。

2  原告両名の損害額

3  過失相殺

(原告両名の主張)

大樹は、小学生である上、小学校で自転車クラブに所属して交通安全の指導を受け、大会出場を予定したのであるから、無謀な横断をするはずがなく、本件事故についての大樹の過失割合が二〇パーセントを超えることはない。

(被告の主張)

被告は、歩車道の区別があり交通量の多い幹線道路を直進中であり、大樹の横断が対向車の通過直後の横断であったこと、被告車はスモールライトを点灯しており大樹が被告者を発見するのは容易であったこと、本件事故の現場の東側約六〇メートルの地点には横断歩道が設置されていたことなどを考慮すると、本件事故についての大樹の過失割合は七五パーセントを超えるものである。

第二争点に対する判断

一  争点1について

救急隊員である坂剛立会の上行われた実況見分の結果を記載した実況見分調書(乙三号証はその写し)については、その内容の真実性について疑う理由はなく、信用することができる。それによれば、本件事故後救急隊員が大樹の救助に訪れた際、大樹は山屋敷橋西の南側歩道上に倒れていたこと、被告車はそのさらに西方の歩道上付近に停止していたこと、救急隊員が再度救助現場に戻ったときには大樹の乗っていた自転車は山屋敷橋西の北側歩道上に置いてあったことが認められる。

証拠(乙二号証、四号証、被告本人)によれば、被告は、本件事故の当日から一貫して本件事故の現場は国道一五五号線の山屋敷橋西側路上であり、対向車とすれ違った直後に本件事故が発生したと述べているが、右各証拠の内容は、先の信用することができる乙三号証の内容とも矛盾するところはなく、自然なものであって、十分に信用するに足りるものである(被告は、本件事故後、被告車を停車させ、対向車線上付近に倒れた大樹を安全な被告車の近くの歩道上に運んだ上、被告車を西方の歩道上付近に移動させて救急隊員を待っていたのであり、大樹の自転車については何者かが山屋敷橋西の北側歩道上に置いたものであるとの被告の説明は十分に合理性のあるものである。)。

これに対し、原告両名の主張に沿う証拠(甲二号証、四号証、原告両名各本人)については、いずれも子供を本件事故によって失ったことから来る感情的な内容のものであり、不合理かつ不自然な部分が多く、容易に信用することはできない。

結局、前掲の各証拠によれば、本件事故は、被告が国道一五五号線を東方から西方に向かって時速約四〇キロメートルを若干超える速度で被告車を走行させていた際、対向して走行してきたワゴン車と山屋敷橋の東側付近ですれ違った直後、山屋敷橋西側付近から右国道を北から南に向かって横断してきたヘルメットを着用しオレンジ色のカッパを着ていた大樹運転の自転車を被告車の前方約二一・七メートルの地点に発見し、即座に急制動の措置を取ったものの間に合わないで発生したものであり、本件事故の現場は、右のとおり国道一五五号線の山屋敷橋西側路上であると認めることができ、これを覆すに足る証拠はない。

しかしながら、右各証拠によれば、被告は、大樹を発見した約五メートル手前で発見が可能であったことが認められるから、本件事故について被告に進路右方前方の安全の確認を怠った過失がないとはいうことはできない。

二  争点2について

1  逸失利益

原告両名は、大樹の逸失利益として、一八歳から六七歳まで男子労働者の各年齢別年間給与額に相当する収入を各年齢に達したときに得られるとして別紙計算書記載のとおり中間利息を控除した合計額一億〇七三一万六〇六三円から生活費として四〇パーセントを控除した六四三八万九六三七円を請求する。

しかしながら、大樹の逸失利益については、平成七年賃金センサス第一巻第一表産業計・企業規模計・男子労働者・学歴計・旧中・新高卒一八歳~一九歳の年収額三三〇万七三〇〇円を基礎として、生活費の控除割合を五〇パーセントとし、新ホフマン係数二〇・四六一一(二六・三三五四―五・八七四三)を乗じて算出した三三八三万五四九八円とするのが相当である。

2  慰謝料

原告両名は、本件事故により大樹の蒙った精神的損害等の慰謝料として二〇〇〇万円を請求するが、本件事故の態様、大樹の年齢等本件に表われた諸般の事情を考慮すると、一八〇〇万円が相当である。

3  葬儀料

原告両名は、大樹の葬儀費用として一〇〇万円を請求するが、これを認めるに足る証拠はない。

三  争点3について

前掲の各証拠によれば、大樹は、小学生ではあるが、被告車に対向する車両の直後を国道一五五号線上の安全の確認が困難であるのにあえて歩道から右国道を横断したことが認められる(原告両名の主張は推測によるもので理由がない。)。右のような状態のもとでは大樹がヘルメットを着用しオレンジ色のカッパを着ていたことが被告による大樹の発見が容易であったということはできないし、ヘッドライトではなくスモールライトを点灯していたにすぎない被告車が大樹から発見容易であったということもできない。また、右国道一五五号線が片側一車線の対面通行の道路であり最高速度が四〇キロメートル毎時に制限されていることからすると、右国道を幹線道路と見ることはできないし、自転車に横断歩道を渡らなければならない義務はないから本件事故現場から東側約六〇メートルの地点に横断歩道が設置されていたことを考慮する必要はない。前記のような大樹については、本件事故による損害について公平の観点からその過失を斟酌するのが相当であり、その割合は五〇パーセントとするのが相当である。

そうすると、被告が賠償すべき原告両名の損害は合計二五九一万七七四九円となる。

四  結論

右原告両名の損害から、既払金について損益相殺すると、原告両名の損害はすべててん補されていることになる。

原告両名は、本件の弁護士費用として三〇〇万円を請求するが、右のとおり理由がない。

(裁判官 榊原信次)

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